川崎市一周105km|海へ向かう街を走る(後編)

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第三章 直線の川へ



矢上川は、住宅街のあいだを流れている。

丘陵の尾根を辿ってきた身体にとって、その川沿いの直線はあまりにも素直だった。
トレイルは住宅地に入るとアスファルトに変わり、足元は急に平らになる。
それまで続いていた細かなアップダウンが消え、視界の奥まで道がまっすぐ伸びている。

川沿いでは、犬を連れて散歩する人、釣り糸を垂らす人の姿がある。
生活の時間が、川と同じ速さで流れていた。

尾根の「立体」に対して、ここは徹底した「水平」だった。

走りやすい。
呼吸も整う。
身体は均された路面に預けられる。

やがてその直線は、大きな流れへと吸い込まれていく。
鶴見川だ。

川幅が広がり、土手のスケールが変わる。
末吉橋で土手を離れ、再び住宅街へ入る。今度は駅に隣接した街だ。信号が増え、人の往来も増える。相鉄線の線路沿いを走りながら、知っているはずの駅名を、知らない土地として通り過ぎていく。

走ることでしか見えない川崎が、まだ続いている。

ちょっと夕方になり、寒くなってきたような気もする。





第四章 海へ、そして工場へ



京急を越え、国道15号に出る。

ああ、川崎に来たな、と思う。
車の流れ、道路の幅、空の開け方。それまでの住宅街とは明らかに質が違う。

そして、いよいよ湾岸地帯へ向かう。

川崎といえば工場地帯を思い浮かべる人も多いだろう。
この街の歴史は、海と工場とともにある気がする。

最初はこれまでと変わらない住宅街が続く。
やがて倉庫が増え、建物の高さが変わり、そして工場が広がってくる。

人通りは減り、巨大な建造物が視界を占める。
配管、煙突、無機質な壁面。生活の匂いは薄れ、機能だけがむき出しになる。

頭の中の地図では、湾岸地帯はそれほど大きくなかった。
しかし実際に走ってみると、その広がりは想像以上だった。

本当に広いのか。
疲れてきてペースが上がらないからそう感じるのか。
予定より押している焦りかもしれない。
暗さが増しているからかもしれない。

景色は広がっているのに、時間は縮まっていく。

やがて、鶴見線の終点、浜川崎に辿り着く。

湾岸地帯の、ひとつの終着点だ。





第五章 帰路の光



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青看板に見慣れた地名が現れ、道路が帰路を示す。

いったん土手へ出る。川崎側の土手を走るのは初めてだった。

暗がりの向こうに、整然と並ぶホテルやマンションが見える。
再開発された地域なのだろうか。
さきほどまでの工場地帯とは、同じ川沿いとは思えないほど質感が違う。

土手は直線的だが、街灯はない。
ハンドライトを握り、足元だけを照らして進む。

ふと振り返ると、夜景が広がっている。
光の粒の向こうに、さっきまで走っていた工場地帯がある。

それは別れの風景だった。

多摩川にかかる橋は多くない。どれも大きい橋なので、遠くからでも輪郭がわかる。
まずは国道1号線にかかる橋を目指して進んでいく。

そこまで来れば、湾岸地帯とは終わりだ。

あとは、よく練習で走った道。
身体が覚えている道を、ひとつひとつ確かめるように進む。

そして、ゴールした。

105kmは、ひとつの円になった。

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