雑談:痛みと苦しみを切り離す技術 ―― 「二本の矢」と、新しい観察の引き出しについて

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はじめに



私はこれまで多くのレースや、
ウルトラマラソンを走ってきました。

その中で、どんなに体力がつき、
足が速くなったとしても変わらない、
一つの「事実」を味わってきました。

それは、どんなに強くなっても、
走る以上「痛み」からは決して逃げられない、
ということです。

距離が延びれば、不快感は必ず襲ってきます。
そこで重要になるのは、痛みを取り除くことではなく、
「痛みとどう付き合うか」ということ。

中には、身体が発する重要な警告ではない
「単なる違和感」もあり、それを過剰に受け取らず、
冷静に自覚することも長く走るための技術だと感じています。

そんな痛みとの向き合い方について、
アメリカの『Runner's World』誌に、
非常に腑に落ちる考え方が紹介されていました。

仏教に伝わる「二本の矢」という考え方



その記事では、スポーツ心理学の視点から、
仏教の「二本の矢」という寓話が紹介されていました。
これが、長距離を走る私たちの感覚に、
驚くほどしっくりくるのです。

まず、ある人が一本の矢に当たるところから始まります。
矢が刺されば、当然その瞬間は痛い。
これが「第一の矢」です。

しかし、本当に恐ろしいのはその後の反応です。
「なぜ自分だけが不運にも当たったのか」
「もっと速ければ避けられたはずなのに」
「また矢が飛んできたらどうしよう」

このように、頭の中で次々と
ネガティブな「物語」を作り出してしまう。
これが、自分自身で放ってしまう「第二の矢」です。

これをランニングに当てはめると、こう整理できます。

・第一の矢:脚の痛みや疲労感といった「身体的な感覚そのもの」
・第二 of 矢:それに対して「きつすぎる」「もう無理だ」と脳内で繰り返される「苦しみの物語」

記事はこう教えてくれます。
「痛み(第一の矢)は避けられないが、
苦しみ(第二の矢)は選択肢である」と。





「受け流すストーリー」は第二の矢を防ぐ盾だった



自分もこれまで、痛みに対して正面から向き合わず、
「受け流すストーリー」や「対処の引き出し」を
いくつか用意してきました。

今振り返れば、それはまさに、
「第二の矢(ネガティブな物語)」が自分に刺さるのを防ぐ、
自分なりの「盾」だったのではないか、と思うのです。

痛みそのものを消そうとするのではなく、
自分なりの納得感や、別の景色に没入することで、
脳が「苦しみ」を増幅させるのを遮断していたわけです。

ただ、今回の記事はそこからさらに一歩進んだ、
「新しい引き出し」を提示していました。

新しい引き出し:痛みを「生データ」として観察する



それは、痛みから気を逸らすのではなく、
あえて「好奇心を持って観察する」という方法です。

物理的な感覚と、その上に乗っかった自分の「思考」を、
切り離すためのトレーニングと言えます。
記事の内容に基づくと、具体的には以下のような手順になります。

1. **気づく**
「お、第二の矢(きつい、という物語)が飛んできたな」
と、自分の心のつぶやきをただ認めます。議論はしません。

2. **ラベルを貼る**
「これは不安という物語だ」「これは他人との比較だ」
と名前を付け、思考を自分から切り離します。

3. **生データを描写する(核心)**
痛みを感情的に捉えるのではなく、
カメラをズームするように、詳細に「調査」します。
・場所はどこか?(「脚」ではなく「右の太ももの外側」など)
・どんな感覚か?(「燃えるような熱さ」「ジンジンする響き」など)
・変化はあるか?(強くなっているのか、一定なのか)

このように痛みを「生データ」として観察すると、
脳はそれを「脅威」ではなく、単なる「情報」として扱い始めます。

4. **リズムに戻る**
観察が終わったら、呼吸や足の運びなど、
「今、ここ」の身体感覚に意識を戻します。





おわりに



結局のところ、ゴールは痛みから逃げ切ることではなく、
「痛みと共に生きること、共に走る方法を学ぶこと」
なのだと思います。

どんなにベテランになっても、
走る以上は「第一の矢」は飛んできます。

しかし、その痛みが「故障のサイン」なのか、
それとも「ただの不快なデータ」なのかを見極める。

そして、自分自身で「第二の矢」を放つのを止めることができれば、
私たちの走りはもっと自由になれるはずです。

次の練習やレースで、強い不快感がやってきたら。
この新しい「好奇心という引き出し」を開けて、
自分の身体を静かに観察してみたいと思います。




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